夏バテの考え方と整え方

 梅雨の時期から暑い夏にかけて、患者さんの主訴でもっとも多くなるのは、

 

「朝起きても疲れが取れていない」

 

 ということです。疲れにもいろいろな種類がありますが、朝起きたときの疲れは、気がつくりだせない場合(胃腸の弱り)よりも、水がたまっている場合(腎の弱り)の疲れのほうが多く認められます。気がつくりだせない気虚の場合は、通常夕方以降にだるくなったり、鈍い頭痛がしたりします。いずれにしても、夏バテは水がたまっている症状で、とくに腎の弱りは、30代後半から50代ぐらいの、更年期周辺の方に多くみられます。詳しくは、腎と塩について詳述している「花粉のしおり」をご覧ください。

 

 腎臓は、西洋医学的においても血液から尿をつくりだし、骨を強くしたり、全身のリズム(自律神経)をつくりだす生命の要の臓器です。東洋医学的な腎は、解剖学的な腎臓よりも広い機能的な概念ですが、夏バテの根本原因として腎の衰えがあります。

 

 腎の機能を高めるためには、水をとって、尿で出す。という、陰トロピーを高めることが必要です。逆に腎を弱らせる食養生は、夕食の糖質(人類はその歴史のほとんどが、電気のある生活ではありません。つまり、暗くなった頃には食事を食べ終わっている生活をしてきました。また糖質は胃酸で分解されにくいため、小腸内の消化と吸収には、食後から4時間程度かかるため、遅くとも18時までには炭水化物やでんぷん質の摂取は終わらせておくのが理想です)を摂ると、消化を終わらせ、気を産生する夜の時間に免疫細胞が活性化しないため、翌朝のだるさが残り、胸焼け(気逆)や食欲低下(気虚)を招きます。糖質は、朝と昼は多めに摂っても、夜は控えましょう。夜の糖質制限だけでも、2週間程度で3〜4kg痩せる方も少なくありません。また、夜は腎の時間のため、自然塩を積極的にとることで、夜尿や腰痛、歯肉出血や歯槽膿漏の改善につながります。歯磨きをした後に、塩水や塩湯で口を満たして飲み込むことも口腔内をアルカリ性にして、虫歯予防につながります。逆に夜に糖質や果糖(くだもの)を摂ると夜尿や夏バテにつながります。

 

 夕食をがまんするときは「べき・ねば」という考え方だと辛くなるので、夕食をとらなければ、明日の朝気持ちがいい、明日の朝は炭水化物が食べたい!という「いい・たい」という気持で睡眠につくと、気持ちよく眠れます。自然塩の摂取も食欲を落ち着かせてくれるので、夏は自然塩とキュウリ、トマト、あるいは魚や豆腐などをとって早めに寝ましょう。この時期は、太陽の力も強くなるため、どうしても日の出近くの5時頃に起きてしまう人が増えます。太陽のリズムに合わせて、5時に起きるのであれば21:30頃に就寝する。というように入眠の時間を調整しましょう。眠れなかったら次の日1日は頑張って起きて、次の日に早く寝ましょう。1週間もすれば慣れてきます。

 

 

<水の出し入れがうまくいかない要因>

 

水のOUTが少ない

 

① 夜のクーラーのつけっぱなし

 

 水は尿の他に汗でも外に排出されます。疲れがとれない。という主訴の方に一番多い原因が就寝中にクーラーをつけっぱなしにしているということです。体表面が冷たくなりすぎると、汗腺が開かなくなり、水が体内に停滞したままになってしまいます。そのため、寝入りの30〜60分間は、クーラーや除湿をかけて、夜中に暑くて起きてしまったときに、起きてしまった人が、再度1時間程度クーラーをかけてふたたび眠りにつきましょう。暑さが原因で起きてしまった場合には、再入眠は可能なはずです。睡眠の印象は、起きたときの第一印象で決まります。汗を多くかいた朝のほうが、目覚めがすっきりすることを体感すれば、朝おきたときに汗をかいていても、嫌な印象ではなくなって、睡眠の満足度も上がってきます。

 

自然塩の不足

 

 腎臓が血管内に水を集め、尿を多くだすためには、CaやMgなどのにがりの成分が必要です。そのため、化学塩と呼ばれる99%塩化ナトリウムの塩は、汗を増やし、尿を増やせません。むしろ体内への水分貯留を助長するため、夏バテには悪影響を及ぼします。夏バテ対策には、にがり成分を含む、日本(軟水)近海の塩が良いです。試しに自然塩(とくに初心者や、胃腸系が弱い方には海の精「ほししお」がおすすめです。「カルマグ1000」も夏は特に良いです。お酒を飲む方は、レモンサワーにカルマグ、飲まない方はレモンミント水にカルマグがおいしいです。胃腸系の弱い方や、そうでない方も夏には当院の自整茶「夏茶2022」とカルマグがおすすめです。水出しできるお茶なので、少し冷ための水で1日かけてゆっくりとると良いでしょう。

 

水のINが多い

 

① 水のとりすぎ

 

 水を摂るだけで、塩が足りないと、からだに水がたまり、水滞の症状(朝の不調・動悸・不安・むくみ・車酔いなど)が出ます。その際は天然塩の積極的な摂取が効果的です。人間の舌は、味噌汁に少しのお湯を加えると、味がすぐに薄くなることを感じることができます。生物にとって重要な塩に対する味覚は、非常にすぐれたセンサーなのです。塩が体内に足らない場合は、塩がとても甘く感じます(化学塩はいつでもしょっぱいだけです)。とくに夏は、スイカに自然塩を思う存分かけて、朝か昼(遅くとも15時前)に食べると夏バテが回復します。一方で、水分が足りていない場合、塩はとてもしょっぱく感じるので、その時は塩が甘く感じられるぐらいまで水を加えて、塩分摂取だけではなく、水分の摂取も適切に行いましょう。

 

② 冷たいものによる胃腸虚弱

 

 胃腸虚弱も上記夏バテの原因に加わると、巷で言う「熱中症(救急医学的な熱中症とは異なります)」になります。テレビでは熱中症は脱水だと、まことしやかに言っていますが、救急医療の現場をみてきた僕は、それが真逆な状態であることを目の当たりにしてきました。巷の「熱中症」は水分過剰に加え、冷たいもので気を作り出す場である胃腸を弱らせてしまったことによる水滞の症状です。その証拠に、熱中症の方は、前日にビアガーデン行ったとか、アイス食べまくってた(冷たさとすっぱさは甘さを弱めるので、常温で溶かして食べると、いかにアイスが毒であるのかを思い知ります)とかが多いのです。特に「ストロー」のアイスコーヒーやジュースは、口の中であたたまらずに胃を冷やしますので、飲んだ直後にじとーっと嫌な汗をかき、だるくなっさらに水が飲みたくなる。という負のループに入ります。

 

 そもそも夏の自然界には、冷たいものはありません。一番冷たいものが井戸水の17度程度なので、それよりも冷たいものは胃腸を急激に弱めます。冷たいもののとりすぎに注意しましょう。

 

 

<漢方薬の使い方>

 

水滞:朝の不安には39苓桂朮甘湯、喉のつまり・不安もあれば16半夏厚朴湯、夕方のむくみ・飲酒には117茵蔯五苓散

  自然塩は水滞を改善するもっとも効果的な漢方薬です。第二の心臓であるふくらはぎをつかった歩行も水滞を改善します。

 

② 腎虚:腎の弱りには87六味丸7八味地黄丸107牛車腎気丸などが良いですが、夏はジオウが胃のもたれを出しやすいので、胃腸系の弱りがある人には向きません。その場合は、43六君子湯41補中益気湯で胃腸系を補気しながら、17五苓散117茵蔯五苓散で利水をかけると良いでしょう。もちろん夕方以降の自然塩の積極的な摂取も効果的です。

 

③ 脾虚:軟便が続く、食欲がないという気虚の症状や、下痢と便秘を繰り返す・逆流性食道炎がある。などの気滞は遅い時間の糖質摂取が原因になります。食欲のないときは、夕食を一食抜いて、朝昼食を食べたいだけ食べる。という食養生が健康的です。19時以降の遅い夕食を撮り続けている限り、脾虚や気滞は増悪していきます。