生姜(ショウキョウ)

 

[基原]

ショウガ科(Zingiberaceae)ショウガ Zingiber officinale Roscoe の根茎で、ときに周皮を除いたもの

局方規格:本品は定量するとき、換算した生薬の乾燥物に対し、[6]-ギンゲロール0.3%以上を含む

産地:貴州省、雲南省、広西、四川省、インド



[異名別名]

乾生姜(カンショウキョウ)、干姜(カンキョウ)、生薑(ショウキョウ)、乾生薑(カンショウキョウ)



[選品]

乾燥が良く、肉厚で色が黄白色で粉性に富み、味が辛く、膨らみがあり、特異な香気が強く、カビなどの付いていないものを良品とする。萎びたものや切片のものは不良である。

貯蔵:精油の揮散を防ぐため、低温で気密保存するのが望ましい。



[成分]

精油(α-チンギベレン))、辛味成分([6]-ギンゲ ロール、[6]-ショウガオール)など



[薬理]

抽出液:嘱吐抑制、胃液・胃酸・ペプシン分泌抑制

抽出物:デンプン消化能増強、胃の緊張と蠕動運動を抑制、鎮痛、ヘキソバルビタール睡眠延長

新鮮根茎の精油:鎮痙

[6]-ショウガオール:中枢抑制、鎮咳

[6]-ギンゲロール:中枢抑制、プロスタグランジン生合成阻害



[効能主治]

性味:辛、温

帰経:肺、胃、脾

効能:発汗し寒を除く、止嘔する、去痰する

主治:感冒、嘔吐、痰飲、喘咳、腹部の張りと膨満感、下痢。半夏・天南星・ 魚蟹・鳥獣の肉の毒を解す



[引用文献]

神農本草経:胸満、逆上氣(ガイギャクジョウキ)を主り、中(チュウ)を温め、血を止め、汗を出す。風湿のを逐(オ)い、腸澼(チョウヘキ)下痢を主る。生は尤(モット)も良し(乾美の名称で収載)

古方薬品考:生姜は胸を利して、且つ薬功を奏す

重校薬徴:結滞水毒(ケッタイスイドク)を主治す。故に乾嘔、吐下、厥冷(ケツレイ)、煩操、腹痛、胸痛、腰痛、小便不利、小便自利、咳唾延末(ガイダエンマツ)を治す(乾美の名称で収載)

古方薬議:嘔吐を止め、痰を去り、氣を下し、煩悶を散じ、胃氣を開く

 


◯現代における運用のポイント◯

発汗解表作用

身体を温め、よく発汗させる効能がある。ゆえに、 軽い感冒に頻用される。必ず温服する。

止嘔作用

すべての嘔気・嘔止に効果があるが、寒性のものに、より有効である。半夏と共に用いると半夏の刺激性を抑制し、止嘔効果をいっそう高めることができる。

解毒作用

カニ・エビ・魚貝類などの中毒の予防、および解毒をはかる。

(注)生姜と乾姜の効能における区別:嘔吐の強いものは生姜を(この場合は、生のショウガが最も良い)、冷えの強いものは乾姜を用いる。

 

 

使用注意

目の充血や痔疾に生姜を多量服用すると、患部の充血を促進するので、使用量に留意する。

 

 

 【古典における生姜と乾姜について】

● 中国最古の本草書『神農本草経』にはショウガは「乾姜」の名称で記載されており、文中では生のものについても言及されている。

● 後漢に著された『傷寒論』(張仲景 / チョウチュウケイ)においては、「生姜」、「生姜汁」、「乾姜」の3者が登場し、それぞれ使い分けられている。この場合の「生姜」は生のショウガの根茎と考えられる。

● 南北朝時代に著された『名医別録』(陶隠居 / トウインキョ)では「生姜」と「乾姜」のそれぞれが記載されている。「乾姜」の製法については「ショウガを水に漬け皮をむき、さらし干しし、更に3日間甕(カメ)に入れて熟成させる」としている(『経史証類大観本草 / ケイシショウルイタイカンホウゾウ』より)。

● 隋、唐代では『薬性論 / ヤクセイロン』(筑甄 / ケンケン 撰)に「生姜」、「乾姜」の区別がある(『経史証類大観本草より)。後代李時珍(リジチン)は、ここで示された乾姜の薬効について 「乾生姜」 と「カンキョウ」に分類して『本草綱目』に記載している。

● 隋、唐代では『千金方』(孫思邈 / ソンシバク)に「乾姜(生干しショウガ)なきときは、2倍の生妾(生のショ ウガ)をもってこれに代える」と記載されている。これが「乾姜」の代わりに「生姜」を代用する用法が起こったゆえんである。

● 宗代の『経史証類大観本草』(晟 / ガイセイ 校定)には「乾姜」と「生姜」の両項目があるが、ここでは『神農本草経』における生のショウガを「生姜」に当てている。

● 明代の『本草綱目』(李時珍)では、「生姜」、「乾生姜」、「乾姜」に記載が分かれている。乾姜の項では、「乾姜」の製法を蘇頌(ソショウ)(『本草図経の編者)より引用し「根を採って、長流水(チョウリュウスイ)で洗い、日光に晒す」としている。また、3. の説を「漢州の乾姜法」であるとしている。

●『本草綱目の乾姜の項に「乾姜を炮(ホウ)じる」という記載が見られる。以下は金元期の医家の引用である。

「元素(ゲンソ)曰く・・・乾姜の本来は辛いものだが、炮(ホウ)じればやや苦くなる。ゆえに止まって移らない。よく裏寒を治するのはそのためであって附子の行って止まらぬやうなものではない。理中湯(リチュウトウ)にこれを用いるのは、このものが陽を回(メグ)らすものだからである」

「李杲(リコウ)曰く。乾姜は生では辛く、じれば苦い。・・・生では寒邪を逐(オ)うて表を発し、じれば胃冷を除いて中(チュウ)を守る」

● 『中大辞典では、「生姜」、「乾姜」、「炮姜」、「煨姜」についての記載がある。生姜の修治の項には「生姜:雑物を取り去った後、泥を洗い落とし、用事片に切る」とあり、乾姜の項には「乾姜:雑物を除いた後、水に3〜6時間浸して取り出し、ふやかしてから薄片あるいはさいの目に切り、日干しする」「炮姜:姜塊を鍋に入れ、気泡が出てきて膨れ、外皮がキツネ色、内部は黄色を呈するまで強火で妙り、清水を少し吹きかけた後取り出し、日干しする」とある。また、生姜の項に「煨姜(ワイキョウ):生のショウガの根茎を濡れ紙に包み灰の中で蒸した後、乾燥させたもの」との記載がある。

● 日局17には「生姜」は「ショウガの根茎で、ときに周皮を除いたもの」と記載されているが、市場品はほとんど周皮をはぎ、熱を加えて、あるいは天日により乾燥させたものである。軽く湯通しの後、乾燥させたものも「ショウキョウ」として市販されることがある。

「乾美」の市場品は煮沸した後、乾燥させたものであるが、それ以外にも、「三河乾姜(生の生姜を日本で湯通しして乾燥したもの)」や「炮姜(生の生姜を濡れ紙に包んで木灰の中で蒸したもの)」などが、一部臨床家の間で使われている(いずれも市場品としての流通はない)。

 このように見ると、古典で見られる「生姜」は生のショウガの根茎であり、「乾姜」は現在日本で流通している局方品の生姜に当たる。現在日本で言う 「乾姜(ショウガの根を煮沸した後乾燥させたも の)」は「炮姜」など熱を加えて修治したものと薬能などが似ている。ただし、隋、唐以降では、熱を加えて修治したものが、「乾姜」という名称で説明されている可能性もあり、「乾姜」という語はかなり混乱して使われているようである。

 

【参考】生のショウガの根茎(古典に言う「生姜」)の効能

神農本草経:久しく服すれば、臭氣を去り。神明に通ずる。(乾姜の項中「生のもの」について言及した部分)

薬性論:痰、水氣満(マン)を主り、氣を下す。生と乾は並びに嗽(ソウ)を治し、時疾を療じ、嘔逆を止め食を下さず。生は半夏を和して心下急痛を主る。若し、熱に中りて食する能(アタ)わざれば、つき汁に蜜を和して服す。又、汁に杏仁を和して煎を作れば、一切の結氣實、心胸擁隔(ヨウカク)、冷熱氣を下すに神効す。

重校薬徴:生姜は嘔を主治するなり。乾姜は結滞の水を主治するなり。混同すべからず (乾姜の互考の項より引用)。嘔する者は生姜之を主る。痰飲あって嘔吐する者は半夏之を主(ツカサド)る(半夏の互考の項より引用)。

 

 

 

 

 

 

 

参考文献:「漢方294処方生薬解説」(じほう)