桂皮(ケイヒ)

 

[基原]

クスノキ科(Lauraceae)Cinnamomum cassia Blume の樹皮または周皮の一部を除いたもの

 

産地:広東省、広西、ベトナム



[異名別名]

桂枝(ケイシ)、肉桂(ニッケイ)、桂心(ケイシン)、牡桂(ボケイ)、紫桂(シケイ)、玉桂(ギョクケイ)



[選品]

皮の大小、厚薄にかかわらず、特異の芳香と辛味があり、後に甘味のあるもの、精油成分に富んでいるものを良品とする。細い枝を桂枝として賞用するむきもある。去皮とあるのは、外側のコルク層を去ることで薬効部分を増量するためと言われている

 

貯蔵:本品は揮発性の精油を含むので,、揮散しないよう、低温の場所に気密保存するのが望ましい



[成分]

精油(ケイアルデヒド)、ジテルペノイド、カテキン類、タンニンなど



[薬理]

抽出物:解熱、抗アレルギー

精油:胃腸管の運動進・緊張上昇

ケイアルデヒド:血中カテコールアミンを上昇、血圧降下、心拍数減少、血糖上昇、末梢血管拡張、緩和な中枢刺激作用(少量で覚醒的、大量で抑制的)、鎮痙、局所刺激、局所麻酔、抗カビ



[効能主治]

性味:辛甘、温

帰経:膀胱、心、肺

効能:発汗し解肌(ゲキ)する、上衝(ジョウショウ)した気を下げる、温補し経脈の流通を良くする

主治:感冒による頭部・肩背部・四肢・関節の疼痛、胸痺、月経不順



[引用文献]

神農本草経:上気逆(ガイギャク)、結氣、喉痺、吐吸(トキュウ)を主り、関節を利し、中を補い氣を益す(牡桂の項)

古方薬品考:桂枝は前鋒(ゼンボウ)発表の宰宗(サイシュウ)、肉桂は中を温め、百功を宣導(センドウ)す(桂枝の項)

重校薬徴:上衝を主治す。故に奔豚(ホントン)、頭痛、冒悸(ボウキ)を治す。発熱、悪風(オフウ)、自汗、身体疼煩(トウハン)、骨節疼煩、経水の変を兼治す(桂枝の項)

古方薬議:関節を利し、節脈を温め、煩を止め、汗を出し、月経を通じ、奔豚を泄し、諸薬の先通使(センベイツウシ)と為る(桂枝の項)

 


◯現代における運用のポイント◯

発汗解表作用

軽い発汗作用があるので、虚証のかぜに用いる。

降気作用

気の上衝による精神不安・不眠・めまいなどに用い、気を降ろすことによってそれらの症状を緩和する。

駆瘀血(クオケツ)作用

他の駆瘀血剤と配合し、瘀血を除く。

鎮痛作用

発汗によって、関節・筋肉の痛みを緩解させる。また、冷えによる腹痛に用い、 温補することにより腹痛を治す。

 

 

【参考】

肉桂の効能主治

性味:辛甘、熱

帰経:腎、脾、膀胱

効能:腎の陽気を補う、脾胃を温める、慢性の冷えを除く、血流を促す

主治:命門火衰(メイモンカスイ)、四肢の冷えと脈の衰弱、亡陽(ボウヨウ)と虚脱、腹痛、各種下痢、寒疝(カンセン)、奔豚(ホントン)、腰膝の冷えと痛み、無月経、癥瘕(チョウカ)、熱や痛みを伴わない瘡瘍、冷えのほせ

 

 

【備考】

基原:

1.桂皮は地域によりそれぞれ異なる学名がつけられているが、すべて C. cassia Blume の地域変異と考えられ、局方の基原は1種類となっている。ただ、類似した植物が多く、分類的にも1種ではないという説もある。現在流通しているものとしては、中国産とベトナム産が中心であるが、それぞれ成分や味に特徴があり両者の区別は容易である。処方に用いる場合には、それぞれの特徴をつかんで利用するとよい。

 

2. 肉桂は桂皮の肉厚のものを言うが、作用は発表効果よりも強壮効果に力点が置かれ、利用上、桂皮とは区別されている。なお、それ以外に別の植物(ニホンニッケイ C. sieboldii Meisn)の根皮を指す場合があるが、こちらは製菓用などに利用され、薬用には用いられない。

 

近年の研究報告::

1.桂皮には、従来から鎮痛、発汗解熱、抗アレルギー作用などが報告されているが、その作用は炎症性サイトカインの産生抑制によるもので、ウイルス感染の重症化要因となるサイトカインストームを制御できる可能性が高いことを示している。桂皮を含む葛根湯にT細胞の分化を促進してウイルス肺炎を軽減する作用が報告されている。臨床的に、桂皮を含む漢方薬を服用していると感冒に罹りにくく、罹っても軽症で済み、治りが早いという経験を裏づけるものである。

 

2.桂皮は、炎症によって局所のアクアポリンが活性化して炎症性浮腫を来している部分だけに選択的に働いて、炎症性ケモカイン分泌を抑制して、炎症を鎮静化することが報告されている。これは、五苓散の脳浮腫、脳炎改善効果を裏づける基礎的エビデンスになるものと考えられる。

 

 

 

 

 

 

 

参考文献:「漢方294処方生薬解説」(じほう)