甘草(カンゾウ)

[基原]

マメ科(Leguminosae)① Glycyrrhiza uralensis Fischer または ② G. glabra Linné の根およびストロンで、ときには周皮を除いたもの(皮去りカンゾウ)

 

局方規格:本品は定量するとき、換算した生薬の乾燥物に対し、グリチルリチン酸 2.0% 以上を含む

 

産地:①内蒙古、吉林省、山西省、陝西省、寧夏、甘粛省、黒竜江省、 ②甘粛省、内蒙古、新疆、ロシア、イラン、オーストラリア



[異名別名]

蜜甘(ミツカン)、蜜草(ミツソウ)

 


[選品]

棒状で太く、質が堅く充実し、粉性で甘味が強く、苦味が少なく、外皮がしっかりとついており、赤みがあり、内部が鮮黄色のものを良品とする。また産地により、東北甘草と西北甘草の区別がある。東北甘草の多くは内蒙古産で、爪などで 皮がむきやすく脆く、グリチルリチン酸含量も多い。西北甘草は西省、河北省、山西省周辺に産する。表皮がむけにくく、色が赤く、硬くしまっ ており、グリチルリチン酸含量は東北甘草に比較して、やや劣る。刻み向けには西北甘草が多く用 いられている。

甘草の等級には甲・乙・丙・丁(太さで区別)・等外(折れたもの・切り落とし)があり、刻み向けには甲・乙・丙級が用いられる。外皮を除いた皮去甘草と称するものがあるが、粉末にして用いるので煎薬の原料としては使用されない。

また、熱を加えて炙甘草としたものも流通している

 

貯蔵:本品は,湿気がつきやすく, カビや虫がつきやすいので低温で乾燥した場所 に保管する

 

 

[成分]

トリテルペノイドサポニン(グリチルリチン酸 2.0%以上)、フラボノイド(リキリチゲニン、イソリキリチゲニン)など

 


[薬理]

抽出物:抗潰瘍、デオキシコルチコステロン作用、エストロゲン様作用、鎮咳

グリチルリチン酸:抗潰瘍、潰瘍修復、副腎皮質刺激ホルモン様作用、抗炎症、抗アレルギー、鎮咳、インターフェロン誘起

非グリチルリチン酸含有画分:抗潰瘍、胃液分泌抑制、潰瘍修復、鎮痙、膵液分泌促進

エキス製剤(デグリチルリチネイテッドリコリス):胃粘膜血流量増加

イソリキリチゲニン:鎮痙

 

 

[効能主治]

性味:甘、平

帰経:脾、胃、肺

効能:胃腸機能を調え緊張をとる、肺の津液を補い鎮咳去痰する、薬物・食物の中毒を解毒する。外用して皮膚の炎症を止め、またトゲ抜きに用いる

主治:咽喉腫痛、消化性潰瘍、化膿性の各種できもの、薬毒、食中毒。(甘草)脾胃の虚弱、食欲不振、腹痛と未消化便、疲労による発熱、肺機能衰弱による咳嗽、動悸、けいれん、引きつけ発作

 

 

[引用文献]

神農本草経:五臓六腑の寒熱邪気を主(ツカサド)り、筋骨を堅じ、肌肉(キニク)を長じ、力を倍す。金創腫(キンソウシュ)、毒を解く

古方薬品考:中を緩め、百功を協和す

重校薬微:急迫を主治す。故に厥冷(ケツレイ)、煩躁、吐逆、驚狂、心煩、衝逆などの諸般の急迫の証を治し、裏急、攣急(レンキュウ)、骨節疼痛(コッセツトウツウ)、腹痛、咽痛、下痢を兼治す

古方薬議:毒を解し、中を温め、氣を下(オロ)し、渇を止め、経脈を通じ、咽痛を去る

 

 

◯現代における運用のポイント◯

降気・鎮静作用

甘草には降気作用とそれに伴う精神安定作用がある。とりわけ、桂皮・大棗・山梔子・小麦などと配合するとこれらの作用が増強される。

緊張緩和作用・鎮痛作用

体表・四肢の筋肉・関節・腹部の緊張をほどき、鎮痛する。特に、芍薬や附子と配合すると、これらの作用が増強される。ただし、水腫・浮腫のある場合は効かない。

去痰作用・咽痛治療作用

咽喉部の炎症・潰瘍を治し、よく去痰する。特に、桔梗や杏仁と配合すると、これらの作用が増強される。

温補・回陽作用

陽気を補い、気をめぐらす作用がある。特に、乾姜や附子と配合すると、これらの作用が増強される。

瀉下剤に対する緩和作用

大黄や芒消などの強い下薬と配合すると、下作用を緩和して、鎮痛をはかる。

補津(ホシン)作用

下・発汗・清熱剤と配合して、津液損耗(シンエキソンモウ)を防ぎ、また補う。粳米と配合すると,、一層強化される。

健胃・強壮・止瀉作用

胃腸の潰瘍を治す作用があるが、人参・大棗・生姜・白朮・茯苓などと配合するとよい。

 

 

[使用注意]

リチルリチン酸は、甘草の主要な有効成分であるが、多量に服用すると偽アルドステロン症(低カリウム血症、血圧上昇、浮腫など)、およびミオパチーといった副作用が現れることがあるので、甘草が配合された処方は使用に留意する。

 

 

[備考]

基原:

甘草は野生品のため、資源的な枯渇が深刻化しており、現在栽培化が中国や日本で進められている。中国では栽培化が進み、中国市場での流通や輸出もされているが、グリチルリチン酸含量が低い傾向にある。日本国内においても野生品に混じって一部栽培品が流通する場合がある。なお、日本においても栽培化が進められており、グリチルリチン酸含量や安全性等、実用化にかなうものの栽培にも成功しているが、生産量はごくわずかであり、価格等の問題により需要の一部を担うという段階ではない。現在中国では、甘草は輸出数量制限が行われている品目となっている。

 

効能:

1. 古典の中では炙甘草として用いた例が多い。炙甘草にすることによって作用は穏やかとなり、諸薬を調和する効力が強まる。

 

2. 甘草は、単味であっても『傷寒論』で甘草湯(カンゾウトウ)と呼ばれ(咽痛に用いる)、独立処方として扱われている。

 

近年の研究報告:

甘草の主要成分であるグリチルリチンの薬理作用に、肝臓のステ ロイド不活化酵素の抑制によって内因性ステロイドの働きを持続させる作用がある。それはすなわち、急迫時に体内に増加する抗ショック・抗ストレスホルモンである副腎皮質ステロイドの持続・増強をはかり、生体のエネルギー利用効率を助長し、血糖値上昇、水分保持、気分の高揚を維持し、抗ストレス、抗うつ作用を示すことにほかならない。逆に副腎皮質ステロイドが不足すると全身倦怠感を呈して、それが持続するとうつ状態をまねく。

 したがって、甘草を多く含有する漢方処方では、何らかの急迫症状改善と精神 安定効果が期待できる。このことを常に意識しておくことが有用であろうと考え られる。甘草が多く含まれる処方には、甘草瀉心湯,、小青竜湯、人参湯、五淋 散、芍薬甘草湯、甘草湯、甘麦大棗湯、芎帰膠艾湯、桂枝人参湯、黄連湯、排膿 散及湯、桔梗湯などがある。

 

 

 

 

 

 

参考文献:「漢方294処方生薬解説」(じほう)