塩の選び方・とり方・楽しみ方

 人間にとって生命の源でもある塩をとるということは、人間の野性と情報を考えるうえではとても良い訓練になります。正確で詳細な「情報」と、自分に備わっている「野性」で塩をえらびましょう。


 そのために必要なポイントは3つ。塩の選び方・とり方・楽しみ方です。

 

<効果>


 まず、自然塩にどのような効果があるかというと、東洋医学の腎の機能を補うので、利尿作用、成長促進・老化防止、美肌効果、精力増強、足腰膝の弱り・痛み・冷えなどの改善という効果があります。


また、腎は歯や耳、アレルギーにも関係しています。特に塩が足りていない人の典型例は、朝が弱く、顔や足がむくむ、トイレ回数や尿量が少ない人、鼻水・軟便が多い、血圧が低い(とくに収縮期が120以下の人)、舌がむくんではれている(胖大舌)、歯肉炎を起こす、足が冷えるなどという水滞陰虚の人です。こういう方は、かなりしっかりした量をとって大丈夫です。血圧が120前後に上がると調子の良さを実感すると思います。


また高血圧と診断されている方でも、ほとんどの方は自然塩をとっても血圧はあがりません。むしろ下がる方もいらっしゃいます。血圧に関しては自然塩をとって、冬でもないのに年齢+90を超えて来るようになったら、やめれば健康上の問題はほとんどありません。



 日本人の10〜30%は食塩感受性遺伝子を持っているとされますが、それらの実験は99.9%NaClの実験によって血圧が上がっています。適量の自然塩であれば、血圧上昇する方はほとんどいません。むしろ高血圧のかたが血圧が下がることもよくあります。


 また年齢にもよりますが、血圧が上がったとしても、頭痛やめまいなどの体調不良を特に感じなければ、140/90程度の血圧であっても大きな問題はありません。


 仮にその血圧上昇の原因が自然塩なのであれば、そうなった段階で摂取を控えれば大きな問題はありません。一度血圧が下がってから、なるべく組成の異なる他の自然塩を試してみるも良いことでしょう。


 60歳以上の日本人、特に女性では、正常高値とされる120/80〜140/90以下のほうが、至適血圧とされる120/80以下の人よりも、余命も健康寿命も長いという研究もあります。


いずれの場合も、それぞれの実験は統計や傾向でしかなく、その結果が自分にあてはまるかどうかはわかりません。どんな実験にも、例外や偏りはあるので、問題は数値よりも自分自身の症状です。からだに問題があれば、人間はしっかりと「症状」というアラートを出してくれます。


「年齢+90」程度が30年前の診断基準でした。70歳以上であれば160/100以下に抑えられていれば、自然塩はご自身の味覚と症状を観察しながら、積極的に取っていただいたほうが良いと僕は考えて医療に接しています。症状があれば降圧薬との併用をしながら、自分の心身に合う自然塩を摂取するのは、良いことでしょう。


 子どもの場合は、大人よりも野性が優れていることが多いので、子どもが欲しがるだけ与えてあげてください。特に朝起きれない子は、眠前の塩スープを試してあげてください。夜トイレに起きてしまうようであれば、夕食後でも構いません。


 また、歯磨きの後に口腔内をアルカリ性にする自然塩でつくられた塩湯でうがいして、残りは飲む。という形でも良いでしょう。子どもに合わせて試してください。朝の鼻水や皮膚の状態が改善する子も多いです。その場合は、10%食塩水(ビンに90ml水+10g自然塩)を作って、入浴時に全身の肌や顔に塗って、最後に水であらいながしてください。大人のスキンケアにも良いです。



<選び方>


 どの塩を選ぶのか。実は、塩にも「身土不二」の法則が使えます。



 塩には精製塩再製自然塩、自然塩のうち古い海からできた岩塩や湖塩と海水塩といったものがありますが、自然塩をとる重要性は前回書いた通りです。


自然塩のうち、岩塩や湖塩は地形変動に伴ってできたものなので、長い年月をかけて風雨によってミネラルが大地へ流れています。そのため大陸に住む生物は、ミネラルが高い硬水を飲んでいるので、大陸の人はミネラル分の少ない岩塩を取る方がバランスがよく、日本のような島国は、山から溶出してくるミネラルが少ない軟水で生活しているので、島国の人は、海水のもの、特に居住地近郊の海の塩が良いのです。


ヨーロッパの塩水療法は、ヒマラヤのクリスタル岩塩を用いますが、にがり成分は少なく、塩辛さが強く、肉などの食事との相性が良いのも、身土不二の理論に合致しています。島国に生活していても、そうした味覚を自分の野性が欲している時はとると良いと思いますが、日本人の常用としてはあまりおすすめしません。(おすすめの塩は最後に書きます)



 塩を選ぶときは、製造方法の記載が義務付けられているので、原材料名と工程を見てみましょう。原材料名は日本の海のものにしましょう。オーストラリア・メキシコのものは天日干しでも、CaやMgが析出する前に取られた塩なので、精製塩に近いバランスになっています。


また、工程に関しては、イオン交換膜や逆浸透圧と書かれたものはNaClの濃度が不自然に高いものが多いです。溶解と書かれたものも、遠方から仕入れた塩を再利用しているものが多いので、あまりおすすめはしません。


平釜は良いと思いますが、立釜は真空蒸発缶で大量生産向けの製法です。他の食べものと同じく、大量生産される過程で失われる自然のバランスはとても大きなものです。そのため、大量生産されている塩は100円/100g以下のものが多く、自然の摂理に従っている塩は200円/100g以上のものが多いです。そうした値段も、選び方の基準の一つになります。



<とり方>


 最初は効果が実感できるか、副作用が出るまでは、自分の野性を信じつつ、不安な人は血圧を測りながら、「ちょっと多いかな?」と思う程度まで積極的にとると良いでしょう。積極的というのは、料理やサラダにかけるだけでなく、朝と眠前に塩スープ(塩+お湯+オリーブオイル・昆布など)をおすすめしています。


それというのも、自然塩は基本的に取りすぎて悪いことや、副作用はそんなにないということと、効果を実感するために、最初は少し多めにとってみると良いからです。特に一回あたりの尿量が増えるのを感じる人が多いです。


また夜の足の冷えが軽くなったり、寝起きが良くなり、鼻水がでなくなったりします。しばらくすると、なんか調子良い。という感じで、生命力のベースアップ感が感じられます。それが食べものや呼吸からつくられる「気」とは異なる、腎から生まれる「陰陽」や「精」と呼ばれるものです。



 調子が良くなって来ると、1日にとる量が気になってくると思いますが、人間の塩に対する味覚は、かなり敏感です。


例えば、塩湯にするとき、最初は小指の第一関節の半分ぐらいの量(塩によりますが、もっととっても大丈夫です)を、好きな量の白湯でわってみてください。その時に、ほんの少しの白湯を足すだけで、塩加減がだいぶ変化していることを人間の舌は、判断する能力を持ち合わせています。


東北の方々は、誰に言われて塩をとるような文化になったわけではありません。野性に動かされた生活の中の叡智として塩分摂取量が増えていったのです。あるいは、居酒屋のメニューも塩辛いものが多いのも、さすが酒呑みの知恵です。


遅い夕食の炭水化物も腎を弱らせる代表的な悪い食事ですが、そういったものも居酒屋のメニューには少なくなっています。夜遅くまで呑んで腎に負担をかけるので、歴代の呑兵衛たちは、塩と低糖質食を、自分の野性で感じ取って酒を呑み続けてきたのです。その人類史に基づく自然淘汰の結果が、居酒屋のメニューなのです。


ですから、血圧が異常に上昇する(収縮期が年齢+90以上)とか、頭痛・めまい・むくみがひどいなどあれば、塩を変えるか、一度中断してみてください。塩をとるとむくむ気がするという人がいますが、それはおそらくCa,Mgなどが含まれていない塩、つまり精製塩・再生自然塩・岩塩・湖塩などの可能性があるので注意してみてください。



<食養生への利用>


 食養生は「べき・ねば」で行おうとすると、うまく行きにくいものです。これは不眠症でも同じで、「寝なきゃ!早起きせねば!」と思うと、心身が緊張して眠れなくなります。そういう時は、「寝るって気持ちいい!寝れる時間と場所が与えられているなんてありがたい!」と思えば、よく眠れるようになるのです。


食養生でも、甘いものを「やめねば!!!」とか、間食を「やめるべき!」と考えて我慢するよりも、そういったものを欲しくなってしまったときに、自分がとったほうが良いものを認識しておいて、それをとるようにする。


つまり「とりたい・ありがたい」という方向に行くと、食養生はうまくいきます。その取ったほうが良いものとして、塩はほとんどの方におすすめできるものの代表格です。海の大自然のバランスや、それがあなたの自宅に届くまでの気が遠くなるような奇跡に感謝して飲むと一層のこと効果も高まるでしょう。



<楽しみかた>


 最後に、やはり塩の味を楽しむことが、適正な量と種類を選択することにつながるので、いくつかの塩を塩湯として楽しんでみてください。できれば本を一冊で良いので購入して「学ぶ」と一層楽しく長く続けられます。


塩の主な成分のうち、塩化ナトリウムは塩辛さ、カルシウム甘味、マグネシウム苦味、カリウム酸味といった特徴があります。


 最初に塩鑑定の基準となるものを購入してみると良いと思います。


どんな塩でも良いのですが、バランスがとれていて、日本人の塩水療法にも適しているのが、「海の精(600円/240g)」というマクロビオティック協会も推奨している伊豆大島の塩です。そこをベースに、ミネラルの少ない「クリスタル岩塩」も、海水塩との味の比較にはわかりやすく、脂の多い肉などに合うと言われています。


また、「わじまの塩(500円/100g)」、「伊達の旨塩(530円/400g)」「とっぺん塩(329円/100g)」も僕のお気に入りです。


それと、「キパワーソルト(600円/90g)」という、患者さんにおすすめする時にちょっと恥ずかしくなる感じのスピリチュアルなネーミングの韓国の塩は、かなりおすすめです。少し硫黄の香りがするのですが、まろやかな味で塩湯もおいしいし、いろんな野菜料理や、酒の肴にもばっちり合います。この塩は、韓国の国立公園内にある塩田で天日干しされた後に高温焼成された焼き塩です。



 人間の身体だけでなく、食する飲食物にとっても、細胞の酸化ということは良くないことが多く、鮮度が落ちるのは酸化が原因です。


東洋医学では白砂糖に伴う「瘀血」、あるいは「虫歯」には、酸化が関与していると考えられています。科学の分野でも活性酸素が老化や癌化に関与していることが示唆されていますが、このキパワーソルトは、還元作用がとても高いことがわかっています。


どんな方にも、おいしく楽しんで食べていただけると思いますが、診療上は瘀血の症状が強い方や、抗がん剤治療をしている方などによくおすすめします。



 漢方治療では、いろいろな不調を調整して、最終的には腎の状態を改善する治療に入ると安定します。その段階で、漢方薬を徐々に減らしていく時に、塩をうまくとれるようになると、生命力維持にとっては、漢方薬よりも塩のほうが良いことが多く、漢方薬を漸減していけることが多いので、ぜひ試してみてください。

 

 

 

 

[関連解説]

塩がなぜワルモノにされてしまったのか。