芍薬(シャクヤク)
[基原]
ボタン科(Paeoniaceae)シャクヤク Paeonia lactiflona Pallas の根
局方規格:本品は定量するとき、換算した生薬の乾燥物に対し、ペオニフロリン2.0%以上を含む
産地:北海道、新潟県、長野県、奈良県、和歌山県、四川省、浙江省、安徽省、韓国、北朝鮮
[異名別名]
白芍(ハクシャク)、白芍薬(ハクシャクヤク)、金芍薬(キンシャクヤク)、真芍(シンシャク)、赤芍(セキシャク)、赤芍薬(セキシャクヤク)、山芍(サンシャク)
[選品]
棒状で太く、長くまっすぐで、皮の去り方が良く、充実しており、柔軟性と適度の湿り気があり、断面が白色で変色しておらず、香気が強いものが良品である。味はやや甘く、後に収れん性があるものが良い。湾曲しているものや、断面が変色しているものは次品である。
貯蔵:本品は虫がつきやすく、変色しやすいので、低温で、乾燥の良い場所に保管する。
[成分]
変形モノテルペン配糖体(ペオニフロリン)、安息香酸、ガロタンニンなど
[薬理]
抽出物:抗炎症、鎮痛、腸内容物輸送促進、胃運動亢進、子宮運動を亢進の後抑制
ペオニフロリン:鎮静、鎮痛、抗ペンチレンテトラゾールけいれん、胃運動および子宮運動を軽度に抑制、オキシトシンによる子宮収縮に拮抗、血管拡張、抗炎症、抗アレルギー、抗ストレス潰瘍、記憶学習障害の改善、甘草成分グリチルリチンとの併用で相乗的に筋弛緩作用を示す
[効能主治]
性味:苦酸、涼
帰経:肝、脾
効能:血を養い肝を和らげる、胃部の緊張を緩め止痛する、陰を斂め汗を収める
主治:胸腹脇肋の疼痛、下痢による腹痛、自汗、寝汗、陰虚発熱、月経不順、不正子宮出血、帯下
[引用文献]
神農本草経:邪氣腹痛を主り、血痺(ケッピ)を除き、堅積(ケンセキ)、寒熱疝瘕(センカ)を破り、痛みを止め、小便を利し、氣を益す
古方薬品考:否を排(オシヒラ)き、血を順(メグ)らし、肌を固(カタ)む
重校薬徴:結実して拘攣(コウレン)するを主治す。故に腹満、頭痛、身体疼痛、不仁を治し、下痢、煩悸、血証、癰膿(ヨウノウ)を兼治す
古方薬議:血痺を除き、堅積を破り、痛を止め、中を緩め、悪血(アクケツ)を散じ、藏府(ゾウフ)の擁氣を通宣(ツウセン)し、女人一切の疾、並に産前後の諸疾を主る
◯現代における運用のポイント◯
緊張緩和作用
四肢および腹部の緊張緩和をはかり、四肢の筋肉痛・けいれん、および腹痛を治す
通経作用
瘀血を除き、婦人科系の働きを調え、月経不順・こしけ・月経痛を治す
止汗作用
体表の衛気を補い、寝汗過多を治す
【備考】
基原:
1.日局13の追補より、栽培種を意識した改正がなされ、基原植物が1種類に限定され、中国産の野生品は除かれた。
2.芍薬は、現在中国では「白芍薬」と「赤芍薬」とに明確に分かれ、使用上別の効能を目指して使い分けられている。「白芍薬」は栽培種の P. lactiflora Pallas の根の皮を去り湯通ししたものをを言い、「赤芍薬」は野生種の P. lactiflora Pallas およびその近縁植物(すべて野生種)の根を皮付きのまま乾燥させたものを言う。
なお、日本の芍薬は栽培種の P. lactiflora Pallas の皮を去り乾燥させたもので、中国の「白芍薬」とは異なる。
3.芍薬の主成分であるペオニフロリンの含量は、皮去りよりも皮つきの方が多く、栽培種より野生種の方が多い。
4.日本では、従来、栽培種の皮去り品のみを扱ってきたが、エキス製剤の普及に伴ってペオニフロリン含量の高い皮付きが流通するようになった。ただ、これは栽培種の P. lactiflora Pallas の皮付きの根であり、中国で言う「赤芍薬」とは異なる。
5.現在、芍薬の日本における流通では、栽培種の皮去り品(刻み品として使用)、栽培種の皮付き品(エキス製剤に使用)、中国の赤芍薬(中医など一部で使用)と、大きく3種類に分かれている。
効能:
1.中国の白芍薬と赤芍薬については、おそらく根の内色で白・赤を区別したものと考えられる。3〜4世紀ごろまでは、赤白の区別はなく、野生品の皮付きのものであったと考えられる。赤白の区別が初めて出てくるのは、500年ごろで(『本草経集註(シッチュウ)』に見られる)、薬効の差にも触れられている。また宋代には、栽培種の芍薬が、多く薬用に使用されるようになったという記載がある。
2.「白芍薬」と「赤芍薬」の効能の違いについては、両者とも内臓痛・婦人科系疾患に用いられるが、胃腸系疾患および自汗があるものについては「白芍薬」が、瘀血排泄の効果を狙うものについては「赤芍薬」が多く用いられる。
参考文献:「漢方294処方生薬解説」(じほう)