陳皮(チンピ)

 

[基原]

ミカン科(Rutaceae)ウンシュウミカン Citrus unshiu Marcowicz または C. reticulata Blanco の成熟した果皮

局方規格:本品は定量するとき、換算した乾燥物に対し、ヘスペリジン4.0%以上を含む

産地:和歌山県、静岡県、四国、九州、浙江省、四川省、湖北省



[異名別名]

陳橘皮(チンキッピ)、橘皮(キッピ)、貴老(キロウ)、紅皮(コウヒ)、黄橘皮(オウキッピ)、橘紅(キッコウ)、橘柚(キツユウ)
*備考参照



[選品]

外皮赤褐色で裏面が白くて肌の細かい美しいもので、気味の強いものを良品とする。手むきのものは精油含量が多いが、近年は缶詰やジュース原料の副産物として、熱処理されたものが多く、精油含量不足のものも見られる。

貯蔵:虫がつきやすいので、低温で保存すること、また、精油の揮散を防ぐため気密保存が望ましい。



[成分]

精油(d-リモネン)、フラボノイド(ヘスペリジン)、シネフリンなど



[薬理]

抽出液:胃液分泌促進
抽出物:子宮のセロトニンによる収縮に拮抗(シネフリンが関与)
ヘスペリジン:肝細胞障害抑制



[効能主治]

性味:辛苦、温
帰経:脾、肺
効能:胃腸機能を調え気を調和する、湿を除き去痰する
主治:胸腹部の膨満感、食欲不振、嘔吐、しゃっくり、痰を伴う咳嗽、魚・カニの解毒



[引用文献]

神農本草経:胸中の瘕熱(カネツ)、逆氣を主り、水穀(スイコク)を利し、久しく服すれば臭を去りて氣を下し、神を通ず(橘柚の項)

古方薬品考:脾を健やかにし、逆氣を靖降(セイコウ)す(橘皮の項)

重校薬徴:噦逆(エツギャク)を主治し、胸痺(キョウヒ)、停痰(テイタン)、乾嘔を兼治す(橘皮の項)

古方薬議:逆氣を主り、嘔咳を止め、痰涎(タンエン)を消し、胃を開き、水穀を利し、魚腥毒(ギョセイドク)を解す(橘皮の項)



◯現代における運用のポイント◯

健胃作用

胃腸を調え、食欲不振・腹部の張りと膨満感を治す

鎮咳・去痰作用
肺部の湿邪を除き、咳を治し、喘を止め、痰を除く

 


[配合処方]

胃苓湯、烏薬順気散、烏苓通気散、温胆湯、化食養脾湯、藿香正気散、加味温胆湯、加味平胃散、枳縮二陳湯、芎帰調血飲、芎帰調血飲第一加減、杏蘇散、啓脾湯、香砂平胃散、香砂養胃湯、香砂六君子湯、香蘇散、五積散、柴芍六君子湯、柴蘇飲、滋陰降火湯、滋陰至宝湯、秦艽防風湯、参蘇飲、神秘湯、清湿化痰湯、清暑益気湯、清肺湯、喘四君子湯、疎経活血湯、蘇子降気湯、竹茹温胆湯、丁香柿蒂湯、通導散、二朮湯、二陳湯、八解散、半夏白朮天麻湯、不換金正気散、茯苓飲、茯苓飲加半夏、茯苓飲合半夏厚朴湯、分消湯(実脾飲)、平胃散、補気健中湯(補気建中湯)、補中益気湯、抑肝散加陳皮半夏、六君子湯



【備考】

 基原:
陳皮と同一基原の生薬として橘皮(キッピ2)がある。陳皮は日局17に、橘皮は局外生規2015にそれぞれ収載されているが、本草学的見地や現状の流通状況からして、両者は、本来一物とすべきではないかと考えられる。

近年の研究報告:
1.六君子湯は、胃の食欲増加ホルモンであるグレリン分泌促進作用によって、抗がん剤(シスプラチン)投与後のセロトニン増加による吐き気や食欲不振などの消化器症状を改善することが知られており、この作用の主成分が陳皮であると判明している。
また、グレリンは食欲不振を改善するだけでなく、強力な成長ホルモンGHの分泌促進物質であり、GHは細胞分裂・増殖、蛋白同化、軟骨細胞の分化増殖を促進し、脂肪代謝を促進し、糖新生、カルシウム吸収、電解質再吸収を促進し、免疫増強作用を有している。この成長や代謝を促進する動きは、漢方的にみれば補脾、補腎、生律、補肺作用に相応するものである。

2.陳皮のフラボノイド成分は、虚血性脳神経障害モデルマウスの虚血後の海馬や歯状回脳室下帯や下顆粒細胞層で神経新生を促進することが明らかにされた。陳皮は痰飲の聖薬である二陳湯の主要構成生薬であり、漢方では認知症が心の痰飲の病とみなされてきたことから、この神経新生のエビデンスは、この認知症に対する漢方病理認識を裏づけるものと思われる。

3.陳皮の成分であるノビレチンとHMFに肥満細胞のヒスタミン放出を強く抑制する効果があり、抗アレルギー作用を示すことが報告されている。

 

 

 

 

 

 

 

参考文献:「漢方294処方生薬解説」(じほう)